獣医師によるペットのオンライン診療について|指針やメリットを解説
近年、獣医療の分野でもペットのオンライン診療が注目されるようになりました。
しかし、オンライン診療には対面診療と異なる特性があります。
オンライン診療の適切な運用のための指針が2024年12月に農林水産省によって策定されました。
今回はオンライン診療の指針を詳しく解説しつつ、オンライン診療のメリットについても説明していきます。
日本における獣医療のオンライン診療指針
2024年12月27日に、農林水産省から、「愛玩動物におけるオンライン診療の適切な実施に関する指針」が発表されました。
これにより国内のペットの診療における土台が作られた形です。
本指針の概要と、獣医師の皆さんが特に気になるであろう部分について詳しく解説していきます。
指針の目的及び位置付け
まず、本指針の目的と位置付けについては以下の通りです。
- 獣医療への迅速なアクセス向上の観点から、愛玩動物におけるオンライン診療のニーズの高まりが想定
- 飼育者の利便性向上等の観点から、オンライン診療の積極的かつ適切な活用を推進するための指針を策定
- 指針は基本的な考え方と具体的適用から構成
つまり、「これからペットのオンライン診療のニーズが高まる可能性があるので、適切なオンライン診療ができるように指針を決めましたよ」ということですね。
指針の基本的な考え方
農林水産省は本指針の基本的な考え方を、7つの項目に分けて表しています。
- リアルタイムな診療
- 獣医師-飼育者関係
- 獣医師の責任
- 獣医療の質の確認
- 正確な情報の提供
- エビデンスに基づいた獣医療
- 飼育者の求めに基づく提供の徹底
一つずつ見ていきましょう。
リアルタイムな診療
1つ目の考え方はリアルタイムな診療です。
オンライン診療は映像と音声を用いて、良好な通信環境で診療行為をリアルタイムで行う必要があります。
獣医師-飼育者関係
2つ目の考え方は獣医師と飼育者の関係についてです。
かかりつけの獣医師が、飼育者から十分な情報を得た上で飼育者が診療方針に合意し、対面診療と組み合わせてオンライン診療を行うことを基本としています。
獣医師の責任
3つ目の考え方は獣医師の責任についてです。
オンライン診療での診療行為の責任は獣医師にあり、オンライン診療が適切かどうかを慎重に判断した上で実施することが大事です。
獣医療の質の確認
4つ目の考え方は獣医療の質の確認です。
獣医師はオンライン診療では得られる情報に限界があることを理解し、定期的に安全性や有効性について評価を行う必要があります。
正確な情報の提供
5つ目の考え方は正確な情報の提供です。
獣医師はオンライン診療でのメリットやデメリットなどについて、正確にインフォームドコンセントを行うことが大事です。
エビデンスに基づいた獣医療
6つ目の考え方はエビデンスに基づいた獣医療についてです。
オンライン診療が適切に普及されるためには、安全性や有効性、必要性が担保されるべきで、エビデンスに基づいた診療を行う必要があります。
飼育者の求めに基づく提供の徹底
7つ目の考え方は飼育者の求めに基づく提供についてです。
オンライン診療は飼育者が希望した場合のみに実施されるべきだという考えです。獣医師側の都合のみで行ってはなりません。
指針の具体的適用について
農林水産省は、指針の基本的な考え方に基づいて、具体的にどのように運用すればいいかを8つの項目に分けて設定しています。
言い換えれば、オンライン診療を行うときにこれら8つを守る必要があるということですね。
8つの項目は以下の通りです。
- 初診は原則「かかりつけ」
- 1の「例外」
- 双方の合意に基づいた診療
- 対面診療を行う体制の整備
- 医薬品の適正使用
- 初診における医薬品の適正使用
- 診療施設への所属 問い合わせの明記
- ネットワーク環境の確保・リアルタイムな診療
それぞれ詳しく解説していきましょう。
初診は原則「かかりつけ」
初診からのオンライン診療は原則として「かかりつけの獣医師」が行うこととされています。
ではあらためて「初診」と「かかりつけの獣医師」の定義について解説します。
初診の定義とは
農林水産省は「初診」を以下の通りに定義しています。
- 診療施設において初めて診察を行うこと
- 継続的に診療している場合でも新たな症状に対する診察を行う場合
- 疾患が治癒した後又は治療が長期間中断した後に再度同一疾患について診察する場合
つまり、診療施設にとっての初めての患者だけではなく、新しい症状や、治療完了後の同じ病気の再発も初診になるということです。
かかりつけの定義とは
「かかりつけの獣医師」についても、農林水産省が定義づけをしています。
農林水産省の定義によると「かかりつけの獣医師」は、当該愛玩動物及びその飼育者が日頃より対面で受診している等直接的な関係があり、既往歴や予防情報、健康診断情報などを把握している獣医師のこと、としています。
簡単にいうと、普段から予防や健康診断も含めて対面診療を行なっている獣医師がかかりつけであるということですね。
初診は原則「かかりつけ」の例外
具体的適用の1つ目によると、オンライン診療は「かかりつけの獣医師によって再診が可能」ということになります。
では、初診のペットはオンライン診療ができないのでしょうか。
具体的適用の2つ目では初診の例外について述べています。
例外については
- かかりつけの獣医師が対応できず飼育者から依頼があった場合
- 診療前相談をするなどして、オンライン診療が可能か判断
- 診療前相談で得た情報は診療簿に記載
などを条件としています。
つまり、かかりつけの獣医師が休日夜間などで対応できない場合やオンライン診療を行なっていない場合に、飼育者から希望があれば初診のオンライン診療も可能ということです。
その場合は、診療前相談などでオンライン診療が可能か判断した上で実施することができます。
オンライン診療で例外的に初診を診療した場合は、診療簿に情報をしっかりと記載して、迅速かつ的確に対面診療につなげる体制を整える必要があります。
また、オンライン診療中に急変した場合には対面診療に移行するのが基本です。
双方の合意に基づいた診療
オンライン診療は、獣医師と飼育者の間で信頼関係を結んだ上で双方合意の上で行う必要があります。
合意に関しては内容を診療録などに記載し、文書やメールなどで飼育者に伝えることが望ましいとされています。
対面診療を行う体制の整備
オンライン診療を行う場合は、診療中の急変に対応するために、飼育者が速やかにアクセスできる診療施設において対面診療を行える体制を整える必要があります。
オンライン診療をした獣医師本人が対面診療を行えない場合は、対面診療が可能な施設への誘導が必要ということですね。
医薬品の適正使用
オンライン診療でを行う上では
- 医薬品の管理、投与方法、副作用などに関する指導の実施
- 特に安全管理が必要な医薬品の処方はしない
ことが求められています。
特に安全管理が必要な医薬品とは?
特に安全管理が必要な医薬品とは、人や動物に使用されたときに機能に危害を与える医薬品のことを言います。
- 劇薬
- 毒薬
- 生物学的製剤
- 麻薬
- 向精神薬
などがあたります。
初診における医薬品の適正使用
オンライン診療で初診に医薬品を処方する際は
- 獣医師の特別な指導が必要な医薬品は処方しない
- 安全性や有効性が確認されていない医薬品は処方しない
- 処方日数は1回7日分を上限とする
ことが求められます。
初診に処方してはいけない医薬品
オンライン診療で初診に処方してはいけない医薬品には
- 要指示医薬品
- 承認された動物用医薬品以外の医薬品
- 動物用医薬品であっても効能外のもの
があげられます。
例えば、オンライン診療で初診に、フィラリアの予防薬や人薬などの処方はできないということですね。
処方日数について
オンライン診療では、初診に1回7日分以上の医薬品の処方はできません。
7日の処方分で症状が改善しない場合には、対面診療を促すことが求められています。
診療施設への所属および問い合わせ先の明記
オンライン診療を行う場合は
- 獣医療法第3条の規定に基づき開設の届出がなされた飼育動物診療施設に所属
- その所属及び当該診療施設の問い合わせ先を明らかにしておく
必要があります。
オンライン診療のみの動物病院はできる?
開業届が出ている診療施設へ所属した上で、オンライン診療を行わなければいけないということは、対面診療の動物病院で働きながらオンライン診療業務を行う必要があるのでしょうか?
結論としては、オンライン診療のみであっても開設の届出と、その施設での診療獣医師としての届出があればオンライン診療のみを行うことができます。
例えば、問い合わせ先を明記しておけば、自宅やレンタルオフィスを飼育動物診療施設として届けることでも、オンライン診療は可能ということです。
ちなみに、オンライン診療を行う場所は、必ずしも所属している診療施設である必要はありません。
診療施設に所属していれば、自宅からのオンライン診療もできるということですね。
ネットワーク環境の確保・リアルタイムな診療
獣医師は
- ネットワークが不安定でオンライン動画が途切れるなど、適切な診療が不可能な場合はオンライン診療を行わないこと
- オンライン診療を文字、または写真、録音動画のみのやり取りで行わないこと
が求められます。
オンライン診療は、安定したインターネット環境で、必ずオンライン動画を用いてリアルタイムに行うということです。
チャットやメールのみでのオンライン診療はできないと言えます。
その他のオンライン診療の指針
農林水産省は、指針の具体的運用にあげている以外にも
- 海外在住のペットのオンライン診療
- 愛玩動物看護師によるオンライン診療の補助
についても方針を示しています。
海外在住のペットのオンライン診療
海外在住のペットにも、日本国内からオンライン診療を行うことが可能です。
診療行為に関しては日本国内の獣医師法や本指針が適用されます。
また、在住している国の法令なども遵守する必要があるため、必ず下調べをしておく必要がありますね。
愛玩動物看護師によるオンライン診療の補助
愛玩動物看護師は、飼育者とペットに対面している場合であれば、オンラインで獣医師の指示のもと診療補助を行うことができます。
その場合、診療の補助行為の内容については獣医師があらかじめ診療計画を定め、予測された範囲内で診療補助を行う必要があります。
つまり、再診かつ予測された範囲内であれば、愛玩動物看護師が飼育者の家に行き、オンラインで獣医師の指示を受けながら訪問看護を行うことができるということです。
オンライン診療の指針についてのまとめ
獣医師によるペットのオンライン診療の指針においては、7つの考え方と8つの具体的運用が示されています。
特に獣医師の皆さんが押さえておきたい点をまとめると
- オンライン診療の原則は、かかりつけの獣医師が再診を診ること
- かかりつけがオンライン診療をできず、飼育者がオンライン診療を求める場合には初診のオンライン診療も可能
- オンライン動画でフェイストゥフェイスで行う
- 初診のオンライン診療では、処方できる医薬品と処方日数に限りがある
- 飼育動物診療施設に診療獣医師として所属している必要がある
- 対面診療へ誘導できるように準備しておく
となります。
また海外在住のペットへのオンライン診療や、愛玩動物看護師への訪問看護指示なども方針が示されているため、オンライン診療を行う際は指針をよく確認するようにしましょう。
オンライン診療の適用とメリットは?
獣医師による愛玩動物のオンライン診療の指針について詳しく解説してきましたが、そもそもオンライン診療はどのようなケースに向いていて、どんなメリットがあるのでしょうか?
オンライン診療の適用
オンライン診療はすべての診療に適しているわけではありません。
基本は対面診療の補助としての役割を担うのがオンライン診療です。
しかし、例えば以下のようなケースでは、オンライン診療が適していると言えます。
- 慢性疾患のフォローアップ(皮膚病・アレルギー・糖尿病など)
- 軽度の症状に関する相談(軽い下痢や食欲不振など)
- セカンドオピニオンの相談
- 健康相談や予防医療に関するアドバイス
対面診療よりもオンライン診療を行う方が、飼育者やペットにメリットが大きい場合には、オンライン診療が適していますね。
一方で緊急性の高い症例や、精密検査が必要なケースではオンライン診療は行えません。
オンライン診療の飼い主側のメリット
オンライン診療には、飼い主やペットにとっていくつかのメリットがあります。
メリットを飼い主に説明することで、オンライン診療を受けてもらいやすくなりますね。
飼い主の利便性向上
オンライン診療は、飼い主が自宅や職場から診療を受けられるため、移動の手間が省ける点や診療の待ち時間が少なく、スケジュールに合わせて利用できる点などがメリットです。
動物のストレス軽減
オンライン診療では、知らない場所に行くことで緊張するペットにとって、 慣れた自宅で診療を受けられるのは大きなメリットですね。
地域差の解消
オンライン診療を活用することで、どの地域に在住していても慢性疾患の定期チェックや薬の相談がしやすくなるほか、遠方に引っ越した場合でも、かかりつけ医のアドバイスを受けることができます。
またエキゾチック科や皮膚科など特定の診療科が飼い主の在住地域にない場合でも、診療を受けることができます。
オンライン診療の獣医師側のメリット
オンライン診療をうまく活用することで、獣医師側にもいくつかメリットが考えられます。
オンライン診療が普及すれば、対面診療に直接来院する方が減り、混雑の緩和に繋がります。
また、対面診療において緊急症例や重症例に割く時間も増やすことが可能です。
対面診療とオンライン診療をうまく組み合わせることで、更なる獣医療の発展が期待できると言えますね。
まとめ
獣医師によるオンライン診療には飼い主の利便性向上やペットのストレス軽減といったメリットがあり、今後需要が増えてくるサービスの一つです。
獣医師によるオンライン診療は、農林水産省の定めた指針に沿って適切に行なっていく必要があります。
オンライン診療をうまく活用すれば、獣医療のさらなる発展にも繋がる可能性があります。
必要に応じて対面診療と組み合わせながら、ペットにとって最適なケアを提供していきましょう。
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